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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)214号 判決 1993年9月27日

原告

宮坂正明

被告

特別区人事委員会

右代表者委員長

横田政次

右訴訟代理人弁護士

山下一雄

右指定代理人

河合由紀男

高野洋一

金澤博志

横田明博

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成四年九月一日になした平成三年(不)第三七号懲戒(戒告)処分取消請求事案に対する再審請求を却下するとの決定を取り消す。

第二事案の概要

一  認定容易な事実(本件に至る経過)

東京都江東区職員である原告は、昭和六二年四月一日から、江東区東福祉事務所(以下、東福祉事務所という)の保護第一係に勤務していたが、平成三年四月一二日、江東区区長より懲戒戒告処分(以下、本件戒告処分という)を受けた。その理由は、「主事宮坂正明は、東福祉事務所在籍中、上司の職務命令に従わないことがしばしばあり、その都度注意を促してきたが、いっこうに改めないばかりか、むしろ最近は、障害児の保育措置等福祉事務所の日常的な業務内容にまで立入り、自己の要求等を受け入れるよう主張し、所長に大声で詰め寄り、悪口雑言を浴びせるなど職員としてあるまじき行為が見受けられた。こうした状況は、職場内の他の職員に悪影響を及ぼすだけでなく、福祉事務所を訪れる区民に不信感を抱かせる原因にもなりかねなく、極めて憂慮すべき事態である。よって、ここに深く反省を求めるため、上記処分を行うものである。」というものであった。

原告は、右戒告処分に対し、平成三年六月一〇日、不服申立をしたが(特別区人事委員会平成三年(不)第三七号懲戒処分取消請求事案)、同四年六月一六日、被告は、本件戒告処分を承認するとの裁決(以下、本件裁決という)をした。

原告は、右裁決処分に対し、平成四年六月一九日、再審請求をしたが、被告は、平成四年九月一日、同請求を却下するとの決定(以下、本件決定という)をした。

本件は、右再審請求却下決定に対する取消請求訴訟である(<証拠略>)。

二  争点

不利益処分の不服申立ての審査に関する規則(昭和五三年四月一日特別区人事委員会規則第二〇号、以下規則という)五七条各号所定の再審事由の存否が争点であるが、原告は、本件決定の取消事由として、次のとおり主張する。

1  本件裁決には、次の事実認定の遺漏がある。

<1> 平成元年九月よりの生活保護の扶養義務履行照会書様式改悪に関し、新様式の導入について、見解ひとつない所長は、話合の場の設定を回避し続け、栗林東福祉事務所長と後藤哲男書記長を中心とする組合執行部は結託してその導入を図った。

<2> 扶養照会新様式の内容について、栗林東福祉事務所長は、「ちょっと困って生活保護の申請をどうしようかと考えたりする人は来なくなる。それはいいことだ」と考えていた。

<3> 平成元年一二月より、原告は継続して所長に対し、見解の表明、話合、全体会の開催、細則の再改正を要求した。しかし、栗林東福祉事務所長は、一貫して無言と悪質な言を繰り返すだけで半年を経過させた。

<4> 平成元年一二月からの保育所入所問題に関し、栗林東福祉事務所長は、「慣例だから入所拒否しろ」と担当員に命じ、入所措置行為・事務処理の停止を担当員に命じた。

<5> 平成二年の入所申請の四月排除の事務処理について、栗林所長は五月過ぎても、「却下の理由が僕が分からないから事務処理してはならない」と自身で入所排除しながら、その理由が分からないとする無知と悪質がないまぜになった命令をしていた。

<6> 平成二年の入所申請の四月排除の件について、審査請求をされると行政が困ると考えて、栗林所長は、申請を取り下げるようにと、五月二四日申請者宅を訪問した。

<7> 平成二年六月より、原告は、保育についての改善を文章化したもので要求したが、栗林所長は、無視し、「混乱などないから改善など必要ない。変えると役所が困る。来年も取下げ要請などなんでもやる」と悪質に対応した。

<8> 平成三年二月、同様に、園長の恣意による入所排除が起こったが、所長はこれを認めた。

<9> 原告に対する懲戒処分は、多く「栗林報告」によっているが、同報告は、原告の物理的所作のみを虚偽を交えて過大に報告したものである。

2  本件裁決は、事実を処分庁に都合のいいように歪曲して認定している。

3  本件裁決には、次の事実の判断の遺漏がある。

<1> 原告は、生活保護の申請を抑制することになる扶養義務履行照会書の様式の改正に反対し、また重度の障害児が区立保育所に入所できない現状を改善するように要求した。このような要求は、処分者に差別的で違法・不当な行政を行わせないようにしようとしたものであり、正当なものである。

<2> 所長は、原告に対し、入所申請のあった重度の障害児を区立保育所に入所させないよう、その入所申請を放置することを命じた。このような違法な職務命令に従わないことは、正当であるにもかかわらず、処分者は、職務命令違反を処分の理由としている。

<3> 処分者は、原告の物理的行動のみを処分の理由としているが、原告にそうした行動を取らせた原因は、所長が原告の主張を受け入れず、話し合おうとする原告に対し、誠実に対応しなかったことにある。原告が物理的行動を必然的に取らざるを得なかったこうした過程や差別的で違法、不当な所長の行為について、一切考慮されていない。

4  本件裁決には、判断自体の不正がある。

5  被告は、判断観念について、あらかじめ不正・違法に傾いた観念を所有している。

第三争点に対する判断

一  規則五七条は、再審事由として、判定の基礎となった証拠物が偽造又は変造されたものであることが判明したとき(一号)、判定の基礎となった証人の証言、当事者の陳述または鑑定人の鑑定が虚偽であることが判明したとき(二号)、判定に影響を及ぼすにたりる重要な証拠が新たに判明したとき(三号)、判定に影響を及ぼすような事実について判断の遺脱があったとき(四号)と、規定している。

しかるところ、原告の前記第二・二・2 4 5の各主張については、右再審事由のいずれにも当たらないことが明らかである。

また、原告の前記第二・二・1 3の各主張にかかる事実は、本件全証拠によるも、規則五七条四号にいう「判定に影響を及ぼすような事実」であると認めるに足りない。

二  よって、原告の再審請求を却下した本件決定は正当であるから、原告の請求は理由がない。

(裁判官 吉田肇)

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